小さな地方都市の店でバイトしていた頃の話 1

俺が学生だった頃の話だ


関東のとある寂れた某地方都市


小さなバーでアルバイトしていた

バーなんていってもそんな洒落たものではなく

バーっていうか喫茶店というか


近くの商店街の主のおっさんおばさん達が集まってくるような小さな店だ


俺は料理を一切覚える気はなく。

トースト一枚だって焼きたくなかった。


たぶん、俺は自分が

汚い存在だと心のどこかで思っていたんだろう

俺が触った食べ物をお客に出すなんてとんでもない


そんな風に思っていた

だからウェイターだけやっていた


まあ一応真面目にやっていたつもりだった

そのときの話を思い出した。



よく来る客がいた。

二人組の中年の男達。


1人は年配で上司で、もう1人が部下らしい。


いつもビシッとスーツにネクタイだった。

ただ、いわゆる普通のサラリーマンとはどことなく違うように思えた。


年配のほうが、サングラスみたいな色付きの眼鏡をしていたからだろうか。

ガラがわるいなんてことぜんぜんはないのだが、

もしかしたらヤクザとか、裏社会の人間なのかもしれないな、とか思っていた。


常連のため、店長ともよく話していた。

俺はどうでもよかった。

ただ飲料やサンドイッチ等を運んだ。



ある日

俺はアルバイトが終わり、自転車で家へ帰っていた。


気まぐれだったのか。ただ暇だったのか。

なんとなく商店街のいくつかの店に寄ってみた


その商店街は地方都市によくあるように。シャッターが閉まっている店も多かった。


だが商店街自体はかなり大きく、様々な店があった。


申し訳ないが


いったいどうやって生計立てているのか?

なぜつぶれないのか?誰が買いに来るのか?


なんて思いながら、布団屋だったり古い玩具屋だったりを眺めていた。

あまり面白くはなかっただろう。


ある店で

あっ!

と思った。


あの二人組がいる。

いつものビシッとスーツにネクタイ、どこかサラリーマンらしくないあの二人組がいた。



その店は鞄屋だった。



俺を見た二人組は、

なぜかひどくバツの悪そうな顔をしていた。


ビジネスマンが使うような皮の鞄とか、ベルトとか


そんなものがたくさんあった小さな店だ。

客は1人もいなかった。

1日に1人も客が来ない日も珍しくないんじゃないか、

そう思えた。


なぜ彼らはそんなにバツの悪そうな顔をしたのか。


そうでなかったら、俺もこんな話は覚えていなかっただろう。


彼らは、小さな店で生業を立てていることが恥ずかしかったのだろうか。


それを俺に見られたことが気まずかったのだろうか。


あるいは


鞄屋だということが恥ずかしかったのだろうか

彼らはどうみても職人ではない。

どこから仕入れた安い鞄をただ売るだけだ。


だがなぜ二人なのだろう。

1日に1人も客がこないような店

店員は1人で十分だろう。


なにか、事情があるのだろう

1日に1人も客が来ないような店でも

おっさん二人が食っていけるだけの稼ぎを得る術が彼らにはある。


だから気まずかったのだろう


いや、考え過ぎかもしれない


そんな彼らを見て

俺もすこしバツが悪かった。


次の日からアルバイトで彼らが来ても


俺はもちろん今までと同じように精一杯の接客をした


ただ、心のどこかで


彼らを哀れむ気持ちがすこしだけ芽生えた。


見られて恥ずかしい仕事なら

バツがわるいなら


そんな仕事はしなければいい。


そのときの、

まだ社会に出ていない何もわからない田舎の学生の俺には


そう思えた