小さな地方都市の店でバイトしていた頃の話 2

俺が学生の頃


確か、昼過ぎくらいだった


近場のおっさんおばさんが集うような

商店街の中にある喫茶店バーみたいな店で俺はコーヒー運んだりしていた


なかなかに混んできていた

テーブル席はすべて埋まり、

入ってきた客はカウンターにしか座れなくなっていた


俺は奥のテーブル席にコーヒーか何かを持っていった


入口の自動ドアが開いて、客が入ってきた。

その客は中年くらいのポロシャツみたいなラフな格好の男性。

カウンターの端、一番入口に近い場所に座った


いらっしゃいませー


と言いながら俺はなにか違和感をかんじていた。

しかし

奥のテーブル席からはその違和感が何かは

把握できてなかった


水とおしぼりを客に持っていこうと

その客を見た


その客は




お面を被っていた

なんか赤っぽいお面だ



俺は特に驚くことはなかった


その店はマスターの友人みたいな人がよく出入りしていた


マスターの友人か知り合いがふざけてお面を被っているのだろう


としか思わなかった



水とおしぼりを持っていこうとだんだん近づくにつれ


それがお面ではないことがわかった


その男性の顔面は

崩壊していた



ユニークフェイスとかショッキングフェイスという症状なのだろう


何かの病気か、病気の後遺症なのだろう


顔面だけが、輪郭が変わるくらい爛れて赤くなり

だが眼や鼻や口は機能しているようだった。



こうして思い出すとたいへん申し訳ないと思うのだが

俺は本能で恐怖を感じたのを覚えている


理性ではわかっている


その男性はまったくもって紳士な客だ、

言葉が通じないわけでもなく、意思の疎通ができないわけではない

静かに新聞を読んでいた


他の客は、その客が少し普通ではない容姿をしていたことに、誰も気がついていなかっただろう

新聞で顔を隠すように読んでいた


俺はその空間にいながら

その客の部分だけが別の世界みたいに感じていた



俺はもしかしたら顔が強張っていたかもしれないが


その客からごく普通にオーダーを取り、マスターに伝えた


そしてその料理をその客に運んだ


それだけのことだ。


食事を終えて客は帰った



なぜあんなに恐怖を感じてしまったのか

俺にはわからなかった


あるいは、今なら

同じ状況になっても

少しも恐怖を感じないのかもしれない


多分そのときは

ユニークフェイスという言葉や

そのような容姿になってしまう種類の病気があることを

知らなかったのだろう


だから怖かったのだろう



それはなんの罰なのか

俺が同じような病気になり

同じような容姿になったら


俺は絶望しないだろうか


もしそうなったら

妻は、そうなった俺を好きでいてくれるだろうか


そうなった俺は

妻に会えるだろうか


俺が拒んでしまうのではないか

傷つくのを恐れて


また、もし妻がそうなってしまったら


考えるだけでも


つらい


妻はその苦しみに耐えられるだろうか


俺はそうなった妻を見捨てないでいられるだろうか


なんて残酷な人間だろうかと思う


その客に寄り添うことができない

その苦しみを思うと

想像を絶していて


きっともし知り合いだとしても

俺はそのことに触れることはできないだろう


なんて残酷な人間だろうかと思う


いろいろなことを考えた



俺はこんなことを書くようなクズな人間だが


どんなことがあっても

嫁だけは守ってやりたいと思う